消費税の「リバースチャージ方式」を解説します
消費税は日々接する税金としてとても身近な税金ですが、事業を行っている方からすると色々と
判断に悩まされることも多い税金の一つでもあります。
今回はそんな消費税の中で、「リバースチャージ方式」という消費税の課税方法について、なるべく
分かりやすく解説したいと思います。
リバースチャージ方式は新たな課税方式ですので、リバースチャージ方式を理解するには、原則的な
消費税の課税方式の理解が必要です。
そのため、まず原則的な消費税の概要や課税方式から説明したいと思います。
(消費税の原則的な取扱いを理解している方は、「2.リバースチャージ方式」まで飛ばしてください)
1.消費税の概要・原則的な納税方法
(1)消費税の概要
消費税は、“国内において”ものを購入したりサービスを受けた場合に支払う税金です。
税率は、この記事を書いているH31.3時点では8%(国税6.3%、地方税1.7%)ですが、H31.10から
10%(国税7.8%、地方税2.2%)に上がる予定です。
消費税を負担する人は、商品を購入したりサービスを受けた人で、消費税を納付する人は商品を販売
したりサービスをした人(事業者)となります。
私がコンビニやスーパーで商品を購入すると消費税を払いますが、税務署に対して払う訳ではありません。
あくまで、税務署に支払うのは店側(事業者)となります。
また、リバースチャージを考えるうえで、“国内において”ということが重要となりますが、“国内において”
とは、基本的には、物の販売であれば販売時のその物の所在場所、サービスの提供であればサービスが行われた
場所が日本国内かどうかで判断します。
海外で何か商品を購入し、その商品を海外で消費する場合には日本の消費税を納める必要はありません。
(2)原則的な納税方法
①原則課税制度
次の算式で収める消費税を計算します。
「預かった消費税 - 支払った消費税」
例えば、事業者が商品を税込10,800円で販売した場合は、800円の消費税を預かっていることになります。
また、この商品の仕入価格が税込5,400円だったとすると、400円は消費税を支払っていることとなります。
よって、このケースでは「預かった消費税800円 - 支払った消費税400円」を差し引いた
400円を事業者が納付することになります。
②簡易課税制度
一定の要件※を満たす事業者の場合、上記の原則的な方法によらずに次の計算方法が認められています。
この計算方法を「簡易課税制度」といいます。
「預かった消費税 - 支払った消費税(概算)」
ポイントは、支払った消費税額を概算で計算することができるという点です。
支払った消費税(概算)の計算ですが、次の算式となります。
「支払った消費税(概算) = 預かった消費税 × みなし仕入率(40%~90%)」
※みなし仕入率は業種により異なります。(小売業の場合は80%)
上記の例ですと預かった消費税800円に、小売業の場合のみなし仕入率80%を乗じた
800円×80%=640円が支払った消費税となり、差引160円を納付することになります。
※一定の要件
・基準期間における課税売上高が5,000万円以下
・簡易課税の届出を課税期間の開始の前日までに提出している
2.リバースチャージ方式
(1)リバースチャージ方式の適用対象取引
リバースチャージ方式ですが、次の2つの取引が適用対象となります。
①事業者向け電気通信利用役務の提供
「国外の事業者が、他の事業者向けにインターネットを通じてサービスを提供すること」
ここでいう事業者向けというのは、提供するサービスの性質等から、サービスを受けるものが
通常事業者に限られるものをいいます。
例えば、インターネット上での広告配信サービスなどが該当します。
(広告配信は通常事業者しか使用しないため)
一方、例えばYouTubeなどの動画配信サイトやSNSなどは事業者でなくても使用しますので、
「事業者向け電気通信利用役務の提供」には該当しません。
仮に法人としてSNSを利用していても、サービスを受けるものが通常事業者に限られる訳では
ありませんので、「事業者向け電気通信利用役務の提供」該当しないということです。
②特定役務の提供
「国外事業者が行う演劇その他の一定の役務の提供」と説明されていますが、海外の芸能人やスポーツ選手
が日本のテレビに出演するという役務の提供をすることなどが該当します。
(実務ではあまり出てこないと思います。)
(2)リバースチャージ方式における“国内において”の考え方
リバースチャージ方式が適用される電気通信利用役務の提供では“国内において”の判断基準が、
「役務の提供を受ける者の住所、居所、本店若しくは主たる事務所の所在地」とされています。
そのため、サービスを受ける者が国内の事業者の場合は、国内の取引となり、消費税が課税されます。
※特定役務の提供の場合は、原則通り、サービスが行われた場所となります。
(3)課税方法
リバースチャージ方式の場合、サービスを提供するもの(国外の事業者)ではなく、
サービスの提供を受けるもの(国内の事業者)が消費税を納めることとなります。
例えば、次の場合、宿泊予約サイトの利用料や手数料を払うのは国内事業者です。
国外事業者:宿泊予約サイト提供している事業者(Booking.com等)
国内事業者:旅行会社やホテル等
原則通りであれば、利用料をもらう国外事業者が日本の消費税を納めることになりますが、
リバースチャージ方式が適用される場合は国内事業者が消費税を納めることとなります。
次の具体例を見てみましょう。
・国外事業者が提供している宿泊予約サイトの手数料10,000円を国外事業者に払った場合
(課税売上割合は80%)
①まず、国内事業者は手数料を支払っているので、この10,000円分の消費税(10,000×8%=800円)
を払ったと考えます。
②同時に、この10,000円分の消費税(10,000×8%=800円)を預かった消費税と考えます。
※この②の考え方がリバースチャージ方式のポイントです。
③「預かった消費税800円 ― 支払った消費税800円×80%(課税売上割合)=160円」
を納付します。
※課税売上が5億円を超える場合、又は課税売上割合が95%未満の場合は支払った消費税
の全額を引くことはできませんので、結果としていくらか納付することになります。
(3)経過措置
当面の間、課税売上割合が95%以上である場合や、簡易課税制度を適用する場合はリバース
チャージ方式が適用されませんので、上記(2)の処理は不要となります。
この場合、国外事業者に支払った10,000円には消費税が含まれていないと考えますので、
消費税上の処理は何も発生しません。
(預かった消費税も発生しない代わりに支払った消費税も発生していないということです)
3.実務上での注意点
(1)契約の相手方はだれか
リバースチャージ方式は、国外の事業者からサービスの提供を受ける場合の取扱いです。
そのため、契約書や利用規約からサービスを提供しているものがだれかを判断する必要が
あります。
例えば、本社が国外でもその国外事業者の日本法人や日本代理店があり、その日本法人や
日本代理店と契約している場合には、リバースチャージ方式の対象外となります。
(2)事業者向け電気通信利用役務の提供か
そのサービスが事業者向けかどうかを判断する必要があります。
なお、事業者向け以外の電気通信利用役務の提供を「消費者向け電気通信利用役務の提供」と
いいますが、消費者向けというよりは、事業者向け以外と考えた方が分かりやすいと思います。
「消費者向け電気通信利用役務の提供」に該当すると、リバースチャージ方式の適用はありません。
なお、「消費者向け電気通信利用役務の提供」の場合の処理は以下のとおりとなります。
①消費者向け電気通信利用役務の提供を行う事業者が「登録国外事業者の場合」
国内の事業者からサービスの提供を受ける場合と同様、支払った料金に含まれる消費税を
預かった消費税から引くことができます。
②消費者向け電気通信利用役務の提供を行う事業者が「登録国外事業者でない場合」
支払った料金に消費税は含まれていないと考え、預かった消費税から引くことはできません。
※相手先が登録国外事業者かどうかは、国税庁が「登録国外事業者名簿」を公表しています
ので、その名簿で確認ができます。
いかがでしょうか。
最近、このリバースチャージ方式の取扱いに関して、多くの消費税の納付漏れが発生しているというニュースを
見かけましたが、上記の経過措置により、リバースチャージ方式の適用除外となる事業者の申告ミスの記事でした。
実際、上記の経過措置によりリバースチャージ方式の適用外の事業者は多いですが、このような申告漏れが発生し
税務調査で指摘を受けると、本来の税金に加えて加算税や延滞税という税金を追加で納めなければなりません。
複雑な話ですが、内容を理解して申告ミスがないように処理していきましょう。
嶋村 真崇